大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和26年(ネ)916号 判決

二、控訴人等は、被控訴人は控訴人に対し、右土地を使用させたため、昭和二十五年二月二十一日賃貸人中村弘二郎から民法第六百十二条の規定により契約を解除され、前項の賃借権は消滅した旨主張するから、先ずこの点から判断する。

その成立に争のない甲第二号証、甲第九号証ないし第十三号証(甲第十三号証については、これが原本の存在及び成立について当事者間に争がない。)の各記載並びに原審証人橋都良平、原審及び当審証人三枝敏郎、平井義計の各証言を綜合すると、次の事実が認められる。前述の罹災前本件の土地の上にあつた建物は、訴外株式会社信濃毎日新聞社が被控訴人から賃借し、東京支店営業所として使用し、控訴人は、同人の母が同営業所に勤務し、昼間は二三人の事務員とともに事務を執り、夜間は同所に起居して右営業所を管理していた関係上、右建物の罹災当時これに居住していたが、昭和二十年暮頃以来被控訴人に対し、その焼跡に家を建てさせてくれるように申し出た。被控訴人は、自分の方で使用したいからと一夜これを拒絶したが、更に接渉の結果、控訴人において資材資金を支出して建物を新築し、竣功とともに、被控訴人にその所有権を移転し、控訴人はバラツク建築許可期間中、被控訴人に対し家賃を支払つてこれを賃借するよう話合を進め、その交渉の進行中、控訴人は昭和二十一年二月被控訴人に無断で突如バラツクの建築に着手したので、被控訴人は建築の中止を申し出たが、控訴人は短日時の間に建物を完成してしまつた。このようにして交渉は一時停頓したが、その後前述のような約旨の契約を締結することとなり、控訴人は、昭和二十一年五月二十八日被控訴人名義を以つて、右建物についての建築許可を受けたので、被控訴人は契約書の案文(甲第十三号証)を作成して、これに調印を求めたが、控訴人は契約条項の一部について異議を述べて調印せず、結局右土地の使用、建物所有権の帰属については、控訴人と被控訴人との間に何等の約定も成立するに至らず、控訴人はその後被控訴人に対し、今日にいたるまで、家賃はもとより、地代名義でも何等の金員の支払をしていないものである。控訴代理人は、当審における主張(三)において、右土地使用の経緯について、右と異る主張をしているが、前記甲第十二号証の記載並びに原審証人中村弘二郎、原審及び当審証人平井義計、当審における控訴人の各供述中、右認定に反し、控訴代理人の主張に副う部分は、当裁判所これを採用せず、他に右控訴代理人主張の事実を認めるに足りる証拠はない。

以上の経過に徴すれば、被控訴人の行為は、民法第六百十二条にいう賃借物の転貸その他第三者をして賃借物を使用収益させたものとはいい得ないばかりでなく、元来控訴人が右地上に前述の建物を築造したのは、控訴代理人も前記(六)において主張するように、物件令の施行期間中であり、かつ、先に認定した罹災建物の滅失当時の居住者である控訴人は、本建築物の所有以外の目的のため、当該土地を使用することができたものであるから、これについて、同令第三条第二項によつて借地権の行使を停止されている被控訴人が、事実上何等かの関与をしたことがあつたとしても、賃貸人中村弘二郎は、右居住者である控訴人のバラツク所有のゆえに、民法第六百十二条の規定により、賃貸借契約を解除することはできないものと解するを相当とする。

三、次に控訴代理人主張の借地権譲渡の申出の効力について判断するに、控訴人が昭和二十三年九月十日被控訴人に対し、臨時処理法に基き借地権譲渡の申出をなし、被控訴人が同月十七日、自ら使用する必要ありとして、拒絶の意思表示をしたことは、当時者間に争がない。控訴人は、先ず控訴人は、同法第一条にいう建物の借主として、同法第三条による申出をなしたものであると主張するが、控訴人ないしはその母の右建物に対する関係は、前段に認定したとおりであつて、(この点について、前記甲第十二号証には、控訴人が、家賃一ケ月金百五十円敷金三千円を、信濃毎日新聞社に支払つたような記載があるが、甲第九号証の記載に徴し、右記載は信用しない。)右建物の借主ということはできない。しかしながら控訴人が、罹災建物の居住者として、その敷地に建築した前記バラツクを、同法の施行当時所有し、右敷地を自ら使用していた者であることは、また前段の認定によつて明らかであるから、控訴人は、同法第二十九条、第三十二条、第三条により、借地権譲渡の申出をすることができるものといわなければならない。

しかしながら前記甲第九号証、同第十一号証を綜合すれば、被控訴人は早く夫と離別し、長女とともに父の家に同居していたが、その後長女も他家に嫁し、父の家における同居は、父の代は別に具合も悪くなかつたが、その子(被控訴人の弟)が相続するに及び、兎角その家族達と被控訴人との間がうまく行かないばかりでなく、その後長女も離婚して被控訴人の許へ戻つて来たので、これ以上弟の家に住んでいることは困難であり、本件土地に建物を建て、長女と共に喫茶部を経営して自活の途を開き度く、すでに建築や商売の資金の手当もできていたことが認められる。一方前記甲第十二号証、証人平井義計、控訴人新津雅子の各供述によれば、控訴人は、他に資産なく、他からの借入金及び所持品の売却等によつて調達した全資産を投じて、本件のバラツクを建て、自身商事会社へ勤務する傍、喫茶店を経営し、本件建物を生活の本拠としていることを認めることができる。右認定にかかる諸般の事情と、二に認定した控訴人が本件土地を使用するに至つた事情、殊に控訴人と從前の建物との関係、また当裁判所に顯著な、本件土地が銀座の最も繁華な地域の一劃をなすこと等一切の事情をしん酌して考察すれば、被控訴人は、前記控訴人の借地権譲渡の申出を拒絶するについて正当の事由があり、右賃借権の譲渡は、成立しなかつたものといわなければならない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!